伊藤若冲

近年、江戸絵画ブームといわれている。「九州国立博物館」にて、その江戸絵画をテーマとした特別展「若冲と江戸絵画」が開催されている。昨日、私はこの展覧会を鑑賞してきたので、その報告を記したい。

狩野派・浮世絵・琳派といったこれまでの江戸絵画の中心とされたグループとは別の、伊藤若冲曾我蕭白といった人々が注目されることによって、近年の江戸絵画ブームは作られてきた。今回の特別展は米国人コレクターのジョー・プライス氏のコレクションの中から、伊藤若冲の作品を中心に出品されている。

伊藤若冲はプライス氏が収集を始めた1960年代にはほとんど一般には知られることがなかった画家である。このプライス氏によって伊藤若冲は日本人に再発見されたといってもいいかもしれない。

今回の特別展を見て思うことは、伊藤若冲という人の画家としての幅の広さである。超絶技巧を尽くしたことが見て取れる作品から、素朴な水墨画まで、技巧やテーマの幅が実に広い。ある傾向の作品をみて「これが若冲だ」と思っていると次の作品を見ると裏切られる。そこには、まったく別の若冲がいる。展示された中からいくつかの作品を取り上げたい。

猛虎図
雪原(?)で右前足の肉球を舐めている虎。毛皮の柔らかい質感が微細な描画によって表現されている。顔を埋めて眠ったら気持ちがよさそうだ。

伏見人形図
7人の人形が行進している。どこに向かっているのだろうか?横広の顔の表情が柔らかい。昔話の一場面を連想させる。

鶴図屏風
六曲一双の鶴の水墨画。様々な姿態の鶴が描かれている。卵のように見える鶴、菊の花のような鶴。そして上段の左から2番目の鶴は、飛び上った瞬間か、逆に着地の瞬間か、動きの一瞬を捉えている。若冲はこれらの絵を鶴を観察して描いたのだろうか。それとも彼の頭の中で鶴を動作させたのだろうか?

紫陽花双鶏図
上記のような作品に心を和ませていると、ついに今回出品中の最高傑作の登場。闘争する二羽の鶏。左側の鶏の眼光の鋭さ。凶暴さを引き立てる鶏冠の赤色の細かい斑点。微細を極める羽毛の描写。紫陽花の花びらは青い宝石を嵌め込んだように見える。

鳥獣花木図屏風(左隻右隻
そして一般に最も知られている若冲作品はこれかもしれない。映像クリエイター紀里谷和明が妻である宇多田ヒカルのプロモーションビデオに採用したのがこの絵である。そのPVでは絵の中の動物達を動かしていた。
この絵は「桝目描き」と呼ばれる技法により描かれている。タイルを嵌め込んだような合計約8万6千個もの桝目を塗り分けることにより独特の立体感を生み出している。「デジタル画」と評する人もいる。
絵の中には何種類の動物達がいるのだろうか?鳳凰や麒麟といった明確に想像上の動物も存在する。鶏の左側の鳥は明らかにヒクイドリだ。こんな鳥を若冲が知っていたとは思われない。と思ってWikipediaで調べてみると、「江戸初期にオランダから幕府に献上された記録がある」という。そのときの絵を参考にしたのだろうか。
そのほか正体不明の動物も多い。象の左側に2頭いる頭が2つあるように見える動物はなんだろうか?また象の右側の動物もいま一つわからない。クロヒョウだろうか、ツキノワグマだろうか?タスマニアデビルのようにも見える。
この絵は若冲の連想した動物の楽園なのだろうか?私はこの絵を始めて見たとき、アンリ・ルソーの絵を連想したが、ルソーの絵と比べても遥かに動物の種類が多い。江戸期の画家の中で(というより日本美術史中の全ての画家を含めても)この発想の異次元性は際立っている。

若冲以外にも、蕭白の「寒山拾得図」、長沢芦雪の「白象黒牛図屏風」、柴田是真の「お多福鬼図」など面白い絵がたくさんあった。

2時間ほどだったが楽しく幸せなひと時を過ごすことができた。

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